建築家がハウスメーカーになれるかも?

「小さな家。計画」がめざすもの

伊礼智×塩地博文(三菱商事建材 木材建材本部流通開発部長)

「小さな家。計画」とは?
―今回伊礼さんが設計された「i・works 15坪の家」は住宅のプロダクト化を見据えたプロジェクト「小さな家。計画」のひとつとして進められたものだそうですが、まず「小さな家。計画」についてお話頂ければと思います。

伊礼― 「小さな家。計画」とは、建築家が設計したプロダクトハウスをインターネットを使って販売しようというプロジェクトです。何人かの建築家が参加していて、それぞれがこれぞ! というプランを用意しているので、その中からクライアントは気に入ったプランを選ぶこととなります。それぞれのプランは規格化されていて、基本的には変更はできません。それをプロダクトハウスと呼んでいます。またプランが確定しているので、空間から仕上げ、壁の中までを高度なCG技術で忠実に再現することができますヴァーチャルなモデルルームです。それによって営業行為を減らせるので、その分コストが削減され、価格を抑えることにもつながります。また、このプロジェ クトでの大きなテーマは、小さな家を設計するということです。それにより無駄を省き、幅広い敷地に対応できることが意図されています。
ではなぜこのプロジェクトが立ち上げられたのかは、発起人の塩地さんにお話いただきましょう。

塩地― 僕が住宅業界に関わったのは、十数年前にモイスという建材の開発に携わった時からでした。その時に木造住宅をかなり見て回ったのですが、当時は棟梁文化と、一方でプレカットメーカーが普及してきて両者がミックスしていたため、木造住宅には定義がない、と感じました。だからこそ、ルールづくりをこちらから側から仕掛けられる、その先には住宅のプロダクト化があると漠然と感じたのです。
それから姉歯事件を機に、プレカットの需要は加速し、生産システムのインフラの共有化が進んでいます。こうした時代の変化を見ながら、僕が常々考えていたルールに基づいた家づくりがいよいよ実現できる時期にきたのではないかと思いました。
そこで伊礼さんに相談したのです。なぜ伊礼さんだったのかというと、標準化することで無駄を削減できる、品質を上げられるということをどうどうとおっしゃっていたからです。標準化を極めて行き着く先は、経験と生産性とデザイン性を併せもつ、ハウスメーカーの仕組みに通じる。さらにつきつめると、住宅は車のようなプロダクトになれるのではないかとお話したのです。そうしたら怒られましたね。簡単にいうなと(笑)。

伊礼― 歴史上成功例がないことや、現実に起こるであろう問題を説明し反論しました。できるわけないでしょう、と。でも、塩地さんがおっしゃった展開に興味はあったんですね。
社会の役に立ち、何か影響を与えられるような新しい提案はしていきたいといつも思っていますから、確かに、「標準化」にも新しい展開ができる可能性はあると思ったのです。一部の人にしかできない高いレベルのことを、誰もが間違いなく、品質を落とさずにできるようにすることが標準化です。それは建築の新しいあり方としても、とてもよいことです。標準化を採用することで短縮できた時間は、さらに新しい挑戦に使われるかもしれませんから。

塩地― もうひとつ社会的背景として、デフレ傾向は避けられない間題だと思うのです。所得は下がっていて、人びとはローンに耐えられなくなっています。ローンのビジネスモデルは、年々所得が上がっていく時に有効ですが、今の時代に所得が右肩上がりに増えていく保証のある人はほとんどいません。そうするとそれぞれの立場においての負担を軽減し、徹底的にリスクを回避していくしかありません。
ビジネスも、物流も、設計も、生産工程も、すべてです。つまり、すべての分野で標準化していくことには意味があるのです。そのためにもプロダクト化、すなわち図面が確定していることが、とても大切なことになります。

国産材を流通させる
塩地― 図面の確定は国産材の流通にもメリットがあります。現状では図面の確定から資材の発注、納品までの時間が短いので、建材メーカーはさまざまな材木をストックすることで対応していますが、図面が確定していれば、資材の発注情報や建て方の情報が数カ月前に分かりますから、国内の山から無駄なく丸太を切り出すことができるのです。
国産材の品質も、乾燥の設備が発達して安定してきましたし、大量に切り出せる製材所が出てきたこと、物流におけるメリットまで考えると、海外の木材と渡り合えるところまできています。国産材比率を50%にしようという動きもありますし、伐採期を迎えている日本の山を循環させるためにも有効なんですね。

インフラの仕組み一プレカット工場と図面の重要性
塩地― 昔の棟梁はオールマイティで、建築家であり、職人でもあり、経営者でもあり、すべてをひとりでやっていました。それが今は設計は建築家、施工は工務店、と分業されています。もっと詳しく見ると、その中間的な仕事をプレカット工場が担っているという現実があります。僕らは建材を扱っているし、プレカット工場ともつながりがある。プレカット工場に施工まで責任をもってもらえば、受注から発注、生産までのインフラを用意することができるのです。

伊礼― 昔と明らかにインフラの状況は変わっていますね。プレカット工場はコンピュータで動いているので、どんどん進化するし、可能性は広がっています。建築家が自分の価値観でハウスメーカーになることも可能なんだと思えてきます。

塩地― インフラを有効に利用してもらうために大前提となるのは、施工図レベルまでの図面をきちんと出してもらうことです。インフラ側の人間から建築家、プレカット工場や建主まで、計画に関わる人間の唯一の共通言語が図面です。図面があってはじめて再現性も出てくるし、責任も明確になります。

運営側と建築家の距離
伊礼― 僕も図面はできるだけ詳細に描きますが、それでも建築をプロダクトと呼べるほどの施工マニュアル的なものには到達していません。職人の経験値に頼らざるを得ないというのが現状です。同じ図面でも施工者によって解釈が異なることもありますから。情報がまだまだ足りていないのです。
たとえば、現場での左官仕上げは職人の技量が間われますね。自然素材は白華することもありますから、そこからクレームが生じたりします。家具も大工さんと建具屋さんとで現場でつくってもらうのですが、プロダクトにするには考え方を変えなくてはいけないでしょう。木建てもそれなりの技量がいりますから、プレカット工場に頼むにしても、そこの大工さんの腕はやはり必要です。求めるものの質は落としたくないので、できるだけ職人技をプロダクトにうまく融合できる方法を考えなくてはいけない。ですから施工は、指定公務店制度を考えているんです。
そうすると全国各地をフォローすることはできませんし、塩地さんが用意してくれたインフラから外れてしまうので、自分で管理しなくてはいけないんですね。
それも難しい間題で……。実際は、まだやらなくてはいけないことがたくさんあります。

塩地― そうですね。僕らが用意するインフラが十分ではないということなら、伊礼さんが手を入れてくださればいいと思います。工務店と勉強しながら、施工のぶれを修正していく方法もあると思います。それも将来的にはCGを使って、現場施工を間違えないように画像データで伝えたり、現場でiPadを使いながら、直接指示していける環境になるかもしれません。とにかく今はそれがどうできるかについての試行錯誤中です。

小さく家をつくる一街並みに貢献する
塩地― プロダクトハウスといった時に、さまざまな敷地に対応するためにも小さくつくる必要があると思っています。家族構成も変わってきていますから。でも僕らが小ささにこだわる理由はそれだけではないのです。
都心の戸建て住宅の多くは、敷地目一杯に建っていますね。限られた敷地を有効に使って、できるだけ広いスペースを確保して機能を備えたい気持は分かります。でもそうした建ち方は施工やメンテナンスが大変ですし、木を植える余裕もなくなります。そういう家が建ち並んでいくことで、よい街並みができていくとは思えないのです。

伊礼― どんなに綺麗でかっこいい住宅でも、敷地目一杯に建ち並んでいたら、街並みとして決して美しくないでしょうね。やはり土地に余裕があって、木が植えられている、そういうことで景観が和らぐのだと思います。どんな家でも土地 に余裕をもって建っていれば、それだけでも街並みはよくなると思います。

塩地― 僕の仕事はインフラを提供することですが、その先に共有するメッセージは同じで、街並みを美しくしたいということです。小さく建てることで土地と建物の関係を豊かにしてほしい。そういう思いでこの計画を実現させたいと思い描 いています。

伊礼― ですから建築家が貴任をもって、このように小さく建てるプロダクト化された住宅も街並みにとっては必要なんだと住まい手に投げかけていくことも大切だと意識しています。それができるのがこのシステムです。住み心地もよくて長持ちして、楽しく住んでもらえる、そんな自分の考える住宅をつくりたいのです。

塩地― 小さくつくる空間の中で、すべての機能と造形を満足させて、現場での施工性や耐震耐火という建築基準までクリアするのは至難の業でしょう。それはきっと限られた建築家の方にしかできないのではないかと僕は思っています。

プロダクトハウスの行方
塩地― この計画では販売の方法はインターネットのみですから、選択肢を飛躍的に増やす必要もあるでしょう。注文住宅的な感覚で、家を決めていく方法も検討しています。十分な選択肢が用意されれば、注文住宅は、「選択住宅」となる可能性も生まれてきます。

伊礼― そもそも本当にインターネットで住宅を買うのか? ということもありますね。ウェブで見ているその家が本当に建つのか、普通はすごく不安を覚えていると思うのです。ですからひとつモデルハウスをつくることが必要かもしれません。

塩地― プレカット工場のような製作の場を、建主に開放していくことも必要でしょうね。まだ課題はたくさんあって万全ではありませんが、技術的な背景は整ってきていますから、これから先の住宅のあり方のひとつとして、可能性を模索していけるプロジェクトだと思います。住宅を小さく美しくつくって、豊かな街並みが出現したらいいですね。

伊礼― 少なくともこのシステムはいろんな人に開かれたものですね。すでにいろいろな建築家がこのプロジェクトに参加していますが、今までの仕事の経験からこれがよかった! というものを集積していくべきだと思っています。住宅史の中でも、たくさんの入が共感する住宅というのは存在しますよね。そういったものを目指して、また、それらを多くの人に提供できる計画とすることができたら、21世紀の住宅のあり方に一石が投じられるのではないかと思います。

(2010、年12月23日伊礼智設計室にて。文資:本誌編集部)

「新建築 2011.02」
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